ある著名な起業家の方の話で、私が感銘を受けたものがあります。それは、
「成功はアートだが、失敗はサイエンスである」 という言葉です。
成功はアート、つまり芸術だと。ゴッホと同じ境遇にいたからと言って、誰もがゴッホになれるわけではないし、成功者のやり方をそのまま真似たからといって、自分も同じように成功するとは限らない。つまり、成功には芸術と同じく再現性がない、ということです。
他方で失敗はサイエンスだと。失敗にはある種の法則があり、そこには再現性があるというのです。「これをやってはいけない」「これをするとこうなる」という必然性がそこには存在します。そのため、自分の失敗や他者の失敗から学ぶことには大きな意義があります。
この言葉に、私はなるほどと深く納得しました。
そして、これは勉強にも通じる考え方だと思います。勉強の得意な子のやり方を真似たからといって、必ずしも同じ成績が取れるわけではありません。他人の成功を真似るよりも、他人の失敗から、そして何よりも自分の失敗から学ぶことのほうがはるかに重要です。
私は、生徒の成績が下がったとしても決して叱りません。それは、失敗こそが学びのチャンスだと考えているからです。こんなエピソードがあります:
ある日、中学1年生のAさんが私のところにやってきました。彼女はいつも一生懸命に勉強に取り組んでいましたが、定期テストで思うような結果が出ませんでした。彼女は申し訳なさそうにこう言いました。
「先生、ごめんなさい。結構成績が下がっちゃいました。」
私は、彼女がどれだけ頑張っていたかを知っていたので、こう返しました。
「何で謝るの?手抜きでもしたの?」
彼女は首を横に振り、「いいえ、前よりもやったと思うんですけど……」と答えました。
私は彼女にこう言いました。
「じゃあ、何の問題もないよ。うまくいかなかった原因を探して、次にどうしたら良くなるか考えて試してごらん。」
このようなやり取りをした後、生徒は、ホッとした顔で、そして次に向けて前向きに取り組む姿勢を見せてくれました。
子どもの成績が下がると気が気じゃないという保護者の方も多くいらっしゃいます。もちろん、そのお気持ちはよく理解できます。しかし、私の経験上、それを叱ったり、原因を問い詰めたりするよりも、「失敗から学びなさい」というアプローチのほうが、子どもの次へのモチベーションを高く保つことができると感じています。
失敗を責めるのではなく、それを次に生かす方法を、子ども自身が試行錯誤するきっかけとする。その結果、子どもたちは自分で考え、学び、そして、成長する力を身につけていくと信じています。